せっ記。ちょっと耳慣れない言葉ですね。耳から耳へと伝えられ、草に埋もれてしまった物語のこと、だそうです。後世に残らず埋もれてしまった物語、なんですね。Primoの旋律は何箇所か左手から右手、右手から左手へと受け渡されます。右手から左手へ移ったときなど音量が急に小さくなったり、大きくなったりしないようにしましょう。一本の線としてなめらかに聞えると素敵ですね。10小節から13小節までは、Secondoにも音がありますが、ほとんどPrimoのソロです。音量はp(ピアノ)。小さいながらもはっきり弾きましょう。左手は支えですからあまり頑張らないようにね。そして14小節目からSecondoがオクターブの重厚なバスを響かせながら入ってきます。この箇所のぱっと周りの空気が広がったような感覚を楽しんでいただけるでしょうか。21小節目からはさらに重厚さが増します。ちょっとSecondoパートが慌ただしくなっていますが、この厚み、しっかり感じてもらえると嬉しいですね。28小節目では二人のオクターブ・ユニゾンをしっかり弾いた後、最後の5小節、遠く闇の彼方へ消えていくように、柔らかくよく響かせたSecondoのアルペジョの和音の上で、息をひそめ、全身を耳にして!(久木山 直)