あの日の川

朝霞の立ちこめる幻想的な情景をバックに、遥か彼方からメロディが聞こえてくる…。そんな神秘的な冒頭数小節の表現は、この曲のつかみです。3段譜で書かれた[A]の部分ですが、3つの表現が調和する感じですね。これをどう表現するか。少々難しい注文になるかもしれませんが、具体的に説明してみましょう。上段のオブリガード・モティーフは、冒頭(lontanoは「孤独に」の意)でのニュアンスそのままに、遠くのほうでぽつりぽつりと鳴っている感じ。下段のアルペジオは全体の響きを陰ながら支えている感じ。このパートが突出すると、響きに透明感が失われてしまうので注意しましょう。そして、中段のメロディ。抑制的の語られる歌。もちろん、このパートは明解さを伴って演奏されるべきでしょう。左右の受け渡しには、細心の注意が必要ですね。以上のように、それぞれの表現を実践していくと、自ずと調和のある演奏になるのではないでしょうか。このとき、メロディの流れをよりどころにすると、演奏にまとまりが出るでしょう。