「ジャズ」というと、スウィングのリズムを主に思い浮かべるかもしれませんが、ライブで曲順を組む際、すべての曲をスウィングにしてしまうと、お客さんも飽きてしまいます。そんなときに重宝するのが、ジャズバラードです。当然ながらテンポも一般的なスウィングに比べて遅くなりますし、レパートリーの中でバラードが何曲かあるとライブ構成の選択肢が圧倒的に増えることでしょう。
　そんなジャズバラードで最も大切なのが、個性的な和音たちです。ジャズ・コーラス・ワークショップでも解説しましたが、ジャズにはジャズ特有の、テンションを含んだ和音がたくさんあり、ジャズのバラードをア・カペラで歌う際には、そういった和音をしっかり歌えるかどうかが成功の鍵を握っている、といっても過言ではありません。
　たとえば、イントロの3 小節目では「D7」というコードに、「b9th」と（小節の前半には）「13th」というテンションが入っています。こうしたテンションは、たいてい誰かと不協和音でぶつかり、それがきちんと歌えないと、和音自体が崩れてしまうのです。難しいコードをうまく歌えない場合は、まず、これらのぶつかるパート以外の人だけでその箇所を歌ってみて、しっかり歌えるようになったらぶつかる音を加える、という作業を地道にしてみるとよいでしょう。
　また、このアレンジでは全体を通してピアノやギターのアルペジオを模したパターンが使われています。これはア・カペラ編曲の王道パターンですが、演奏の際には二番目に鳴る音（ほとんどの場合、バリトン・パートです）がテンポとグルーヴを保つ上でとても重要になってきます。遅れずに歌えるように、メトロノームを使って練習してみてください。